ayan_no0の日記

0番目のあやん 手紙というかたちの日記

番外編 私より足が速いはずのまいこちゃん

お題「動物に襲われた記憶」

たくさんの「みんなのお題」が並んでいるのをぼーっと眺めていたらこのお題を見つけた。

見つけた瞬間、まいこちゃんのことを思い出した。

 

小学3年生の頃、初めて自然発生的にではなく「お友達になろう」と声をかけられて友達になったまいこちゃん。その後も友情は続き、現在も交友関係は続いている(遠方に暮らしているので、しょっちゅうは会えないのだが)。

 

そんなまいこちゃんと、近所にある大規模な自然公園に出かけた時のはなしだ。

 

 

その日は、少しのお菓子を持って、大規模自然公園へ遊びにいった。二人の暮らす地域からは徒歩で40分ほどはかかり、かなりの遠征であった。彼女と私はのんびりとした性格で、植物を眺めたり、動物と遊んだり、散歩をすることが好きであった。鬼ごっこや遊具遊び、ボール遊びなどをすることはまずなく、第三者に誘われたらやる、といった具合だ。

 

その自然公園は、いくつかのエリアからなる広大な公園で、県内でも有数の公園であった。週末には遠方からの来場客で賑わっていたし、フリーマーケットなどのイベント時には、テーマパーク並みの混雑であった。

でも、平日の午後は閑散としているのだ。遊具のあるエリアは子供で多少賑わっていたが、我々のお気に入りは広い池のエリアだった。

まず、その池のエリアへ行く道中が好きであった。池は自然公園内の標高が低いエリアに位置しており、さらに自然の山道よろしく、少し険しい坂道を下っていくのだ。しかし道中には、太陽がキラキラ反射する竹林や、ガマのしげる湿地、松林では松ぼっくりを拾い、その池へ向かった。

 

池のほとりにはベンチがいくつか並び、私たちはそこへ腰掛け、持参したおやつを食べ始めた。さながらピクニック。遠くへ出掛けて食べるおやつほど美味しいものがあるだろうか。

華のある遊具には目もくれず、二人でこうしておしゃべりしている方が何倍も楽しかった。

 

おやつを食べて、キラキラひかる池の水面を眺めていると、一直線に水面を切り裂く白いハサミが見えた。

 

大きな白鳥である。

 

この大きな白鳥は、この自然公園で飼育されており(飼育というのは確実ではないのだが、池のほとりに小屋が整備されており、餌場もあったので、おそらく羽をカットされ、飼育されていたのだと思う)、我々もよくその姿を池の向こうに見ていた。

 

鳴き声が、うるさく、美しくないのが玉に瑕で、たまに「ガーガー!」と騒ぎ始めては、我々の会話を妨害するほどであった。

 

この日は珍しく、その白鳥が池をまっすぐに突っ切って、我々のベンチの方へ向かってきたのだ。いつも白鳥を見つけると近づいていっては、そのつれない態度で、向こうへスッと行ってしまっていた白鳥。この自然公園には、この時期4羽の白鳥がいた。

 

そのまま、まっすぐ、まっすぐ・・・まっすぐまっすぐ・・・

 

人を避けている白鳥はいつも、池の中を泳ぎ、その羽を休める時には、人の立ち入れない池の小島にしか上がらなかったのに。

 

この日は、まっすぐこちらへきたかと思うと、我々の5mほどの距離のその池の淵へ足をかけたのだ。すると大きな声でひと鳴き。

 

「ギャーーーー!!」

 

白鳥の声なのか。とにかくデカくて品のない鳴き声だ。そしてその後徐にこちらを向いたかと思うと同時に、予想外な速度でこちらへ走り出したのだ!

 

私とまいこちゃんは、一気に白鳥から離れる方向へ駆け出した!追いかけてくる白鳥!なぜ追いかけてくる!?おやつは食べ終わった!目を合わせたから?!

とにかく走った。

 

まっすぐまっすぐ、山道のある方へ、全力疾走しながら振り返ると、驚くほど近くに白鳥がいた。めちゃくちゃ足が速い!飛んでない白鳥、めっちゃ足が速い!想像もつかない!

怖い!怖い!怖い!

 

一度、二度、振り返った後は、ずっとずっと前だけを見て走った。

 

山道の半分ほどを登り、池が見えなくなった頃、息が続かなくなり、走る速度も自然と減速・・・息も絶え絶え、まいこちゃんと顔を見合わせた。

 

「助かったね、怖かったね」

 

私たちは、この日以来池へは行かなくなった。何度も話す笑い話のあの日。なぜ白鳥に追いかけられたのだろう。

 

 

 

幾年か経って、この日のことを思い出した時、気がついたことがある。

まいこちゃんは、私よりずっと足が早かったはずなのに、あの日、ずっとすぐ隣を走り続けていた。白鳥から逃れる間、ずっと隣のあたりにいたのだ。まだ止まっちゃダメ!すぐ後ろにいる!そう私に声をかけながら。

 

まいこちゃんは、私を置いていくことなく、一緒に逃げてくれたのだ。