番外編 うたう鳥
夜道を歩いているとき、いや、夜道に限らず、自分を追い越していく自転車に乗った人物が、めっちゃくちゃ歌を歌っていたことはないだろうか。私はこれまでの人生で10人くらいいた。夜道で遭遇すると正直ビクッとするのでご勘弁願いたいのだが、まあ、見ていて(あるいは聴いていて)気分の悪いものではない。むしろ、清々しくて羨ましいくらいだ。
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今年の初めのまだ寒い時期。浜辺へ朝の散歩に行った。我が家はウォーターフロント、海は近いのだが、浜辺は遠いのでこの日は電車で朝から海へ行ったのだ。買ったばかりのカメラでの撮影を試して見たくて波がギラつかない時間を狙ったのだ。
たくさんのコアジサシか。ウミネコか。水のひいた砂浜をあちらへこちらへ歩きながら鳴いている。
私は、冷たい風に当たりながら、鳥のうたを長い時間聴いていた。
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子供の頃(というか中学生や高校生の思春期の頃)それはそれはもう、よくうたを歌っていた。部活の休憩時間に友達と歌ったり、母とドライブへ行けば助手席で。カラオケにも行ったし、授業の合唱も嫌いではなかった。解放された気分になると、うたをよく歌った。旅先を歩いているとき、海や山など視界が開けた気持ちの良い場所に行くと歌った。
でもいつからか、歌わなくなった。
それでも、わずかに社会人になってからもライブ会場で歌った(というより叫んだ?)し、たまに、家で家事をしながら音楽をかけながら歌う。
今は、もうほとんど歌わない。頭の中だけで歌っていることが多い。
不思議だ。人がうたを歌わなくなることについて、こうやって唐突に思い出しては、その度に考えている。
さっき、久しぶりに脳内ではなくて、うたを歌った。掃除しながらだし、本意気の声量ではないが。
なんて気持ちがいいんだろう。人に聞かせられないな、とか考えるようになるから歌わなくなるのか。不思議だ。
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以前の投稿で、ラジオについて書いたことがあり、そこで「フワちゃん」の番組が好きだと書いた。彼女の番組の中にも当然ラジオ番組であるからして曲をかける時間があるのだが、ほかの番組と一線を画して全く違う部分がある。彼女の番組では、流している曲に合わせて、彼女が歌うのだ。お泊まり会の夜のように、オープンカードライブのように。友達同士で声を合わせて歌うときみたいに。一度聞いてほしい。めちゃくちゃ楽しいし、私もそれに合わせて歌うことが多い。(心の中でだけど。ラジオを聞くのは移動中が多いので)
カラオケに行って、人に聞かせることを心の隅に意識しながら歌うのではなくて、CDやレコード、カセットを流しながら、それに合わせて口ずさむ。好きなサビだけでもいい、そういう歌い方、もう何年もしていなかったと思う。
中学生や高校生の頃に戻った気持ちになって、好きなうたを歌う。健やかすぎる。
健やかな自分でいたい。うたう鳥でいたい。